<作成途中・・・すみません>
これまでの研究
はじめに
多重結合(二重結合や三重結合)は、幅広い有機化学分野において、重要かつ中心的な役割を持つ官能基である。しかし、安定な多重結合の形成は炭素、窒素、酸素等の第二周期元素間のみで可能であり、同族の高周期元素からなる多重結合化合物は通常の条件では合成困難なほど反応性が高い。高周期元素間多重結合の化学は、その存在の実証や第二周期元素の系との類似点・相違点の解明等の基礎化学的な観点のみならず、新規物性発現への期待からも機能・物性化学分野の多くの研究者の興味の的となり、国内外で精力的に研究がなされてきた。その結果、1981年に立体保護の手法を用いることにより初めての安定なジシレン
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およびジホスフェン
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(図)が単離され、それ以降様々な高周期元素間多重結合化合物が合成・単離され、「高周期元素間多重結合」の性質が明らかになってきている
3,4
。
我々のグループでは、立体保護による速度論的安定化の手法を用い、高周期典型元素の中でも特に14および 15族元素を含む種々の多重結合化合物に関する研究を行い、以下のような研究を行っている。
高周期15族元素間二重結合化合物に関する系統的研究
高周期15族元素間二重結合の化学では、既にジホスフェンおよびジアルセンについてはかなり研究がなされていたが、より高周期元素の系への展開例としては、1997年に時任らにより安定なジスチベン1aおよびジビスムテン2aの合成・単離がなされたのみであり 5 、これらの性質は全く未解明であった。応募者は、図のBbt基を用い、リン、アンチモン、ビスマスの一連の二重結合化合物1b–3b 6 に加え、新規な異周期元素間二重結合化合物であるスチバビスムテン4 7 およびホスファビスムテン5 8 の合成・単離に成功し、種々のスペクトル解析、X線結晶構造解析、理論計算など多角的な手法を用い、これらの分子構造および物性を詳細かつ系統的に解明した。これらの結果は、有機元素化学において15族元素の理解の中心となる基礎的知見と考えている 4 。
さらに、1b–3bの酸化還元挙動の解明を行い、これらが比較的低いLUMOを有し容易に一電子還元を受けることを実験化学・理論化学の両面から実証した
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。また1bおよび3bの化学的還元反応によるアニオンラジカル種6および7の合成・単離にも成功し、その構造・性質を解明した。これまで窒素あるいはリン原子間二重結合化合物アニオンラジカル種の発生は確認されていたが、15族元素間二重結合のアニオンラジカル種の単離および構造解析に成功したのはこれが初めての例である。
一方、1b–3bの酸化反応の系統的理解を目的として、一連のカルコゲン化反応(酸化、硫化、セレン化、テルル化)を検討した結果、8–19の様な数々の新規な環状ヘテロ原子化合物の単離に成功した
6,10
。これらの化合物は構造化学の観点からも国内外で多くの興味を集めている。